中南米経済が好調である。悪名高かったインフレも落ちつきを見せているし、累積債務問題も一息ついた。80年代からの1人当たりGDPのマイナス成長もプラスに転じた。ずっと続いていた海外への資本流出も終わり、逆に資本が流入するようになった。中南米は、ふたたび「明日の大国」への道を歩みだしたかのようにみえる。背景には、自由化政策と、米国との経済関係の深化がある。自由貿易協定が進み、米国という巨大な市場と、資本と技術へのアクセスが、ぐっと易しくなった。また国内政策が地域協定で縛られることで、これまで外国企業を悩ませてきた朝令暮改的な変動に歯止めがかかったことも大きい。
欧米企業、さらに最近では韓国企業まで、この中南米市場の将来性に着目し、積極的な投資戦略を展開している。しかし日本企業には、まだまだ慎重な姿勢が目立つ。中南米経済の規模はGDPで1.5兆ドルで、日本を除く世界のGDPの7%をしめる。いま注目を集めている東アジアのGDPの合計は1.8兆ドルであり、中南米は東アジアと並ぶ大きな経済地域である。それにもかかわらず日本の貿易総額に占める中南米の比率はわずか4%程度であり、投資残高にしても、金融関連のパナマ、バハマ等を除けば日本の投資残高合計の5%程度にとどまる。
背景には、90年代に進んだ民営化に絡む企業の売却商談に、意思決定に時間がかかる日本企業は迅速・的確に対応できなかったことなどが云われているが、やはり企業風土のギャプは大きい。来年は日本メキシコ移住100周年であり、日本と中南米諸国とは長い交流の歴史がある。それにもかかわらず、まだまだ両者の間には、広くて深い淵がある。
ヘラルド・トリビューンを読んでいると、カラカスで、切り落とした女性の生手首を持って逃げる男を目撃する話が載っていた(IHT、9月18日)。単に指輪を盗むためである。背景には、普通の日本人の理解を超える、固定化され、さらに拡大する貧富の差と、すさまじいまでの人心の荒廃がある。
勿論、中南米の中にも安全な国もある。しかし多くの国では、時計をはめた左手は危ないから運転席の窓から外に出してはならないと教えられる。ちなみに誘拐されそうになった時の車のUターンの方法も教わる。いきなりギアをバックに入れ、ハンドルをいっぱいに切りながら、思いっきりアクセルを踏むのだ。二秒でUターンが完了する。(試す場合は広いところでお願いします)
しかし、こんな恐ろしい話も、米国通と云われる人に話すと「ニューヨークでは別に珍しい話でもなんでもない」とのこと。明らかに社会・文化の面でも、米国は、日本より中南米に近いようだ。なにせ植民地時代からの長くて抜き差しならない関係がある。
日本企業には苦手な、迅速でドライな狩猟型の商慣行も、米国の企業文化である。学生の外国語科目の人気ダントツ一番はスペイン語だ。現在の中南米経済の再生も米国との関係深化のおかげであることは先に述べた。
日本企業でも、北米を拠点にして、現地主導で中南米を攻めるところが出てきている。妥当な判断だろう。蛇の道は蛇という。
(橋本 尚幸)
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